立体写真館
鬼面文鐙瓦 岐阜市長良廃寺(奈良時代)

文化遺産の情報を伝達する手段として、実測図や写真は良く使われますが、立体写真はあまり見掛けません。普通の写真でも現地の状況や遺物 の状態を十分に伝えることはできますが、立体写真は普通の写真では表現できない要素をもっています。何でも立体写真を撮ればいいというもの ではありませんが、対象によってはかなり有効な手段と思っています。この10年間、しばしば立体写真を撮ってきましたが、現在、スキャナの調子 が悪くてスライドから起こせません。そこで取り敢えず、ネガとデジカメ撮影分の中からいくつかを紹介します。 遺跡では石室の写真が最も面白い と思いますが、それらはスライドですので、いずれ改めて追加紹介します。
ここで紹介する写真は、平行法、つまり左目で左の写真、右目で右の写真を見るように配置しています。裸眼で見られる大きさにしていますが、もし 立体視出来ない人は立体眼鏡を入手して下さい。


瀬尻大塚古墳
関市瀬尻にある一辺20数mの方墳で、一見3段築成のように見えますが、上からみると4段であることが分かります。横から見た写真はお楽しみ 写真でしかないかもしれませんが、上から見た写真はモノとの明らかな相違を実感できると思います。

川合次郎兵衛古墳
可児市川合にある古墳で、奇麗に復原整備されています。1辺30m程の二段構造の方墳で、副室が2室あります。木曽川沿いの段丘上にあるた め、とにかく川原石を多用しています。石室だけでなく、墳丘の大半も川原石で葺いて造っています。

南西から

西側面から

南正面

主室前庭部

主石室の内部

西副室の内部

城塚(南出口)古墳
野古墳群は別のページで紹介しましたが、前方後円墳全体の立体写真はあまり面白くありません。墳頂から前方部を撮ったものなど、細部写真の 中には面白いものもありますが、何でも撮ればよいというものではありません。

南方から

東から

山田寺1号建物址
各務原市の現山田寺の西に奈良時代と思われる礎石群がいくつか残っています。この写真はその最北部にある1号礎石群です。風の強い日に1 台のデジカメで撮影したため、近くに枝の見え方が少し変です。しかし、石の状態はよく伝わってきます。

立体写真と考古資料
考古資料の中には立体感を伝えたいものもあります。通常はそういうものも写真や図面で表現していますが、立体写真ではそれをリアルに伝えるこ とができます。特に立体感を伝えたいものとは、たとえば鐙瓦の花弁の深さやシャープさ、土器・須恵器などに残る製作痕跡や圧痕、そして旧石器の 接合資料などです。
各務原(美濃須衛)生産の複弁蓮華文鐙瓦
奈良時代の美濃の瓦の特徴として、川原寺系の瓦が多い点が挙げられます。しかし、いくつかの笵があり、同じ寺院出土ものでも少しずつ変化して います。拓本で見るとその差が見え難いものでも、立体写真ではよく分かるものもあります。次に掲載するものは、岐阜市柳ヶ瀬の東にある厚見中林 寺の例(瑞龍寺址と柄山のページ参照)で、3類に分類できます。1類は
同一の笵から造ったものは少なく

zr55:厚見中林寺1類(柄山1類)
花弁・間弁そして縁の鋸歯文のシャープさを観察して下さい。そして、花弁のなだらかの反り具合を最も注意して下さい。

zr57:厚見中林寺2類(柄山2類)
この個体は笵の傷みが進んだ時点で造っているため、元々造りが良くなかったと思われます。更に遺存状態もよくないので相当崩れて見えますが、 実際にはそれほどでもありません。しかし、1類に比べるとシャープさがありません。拓本では区別しにくいのですが、立体写真では差が明らかです。 なお、縁の鋸歯文は遺存しないだけで、本来はあります。また、蓮子の数の構成は、1類・3類が1+5+9、2類は1+5+8です。

zr56:厚見中林寺3類(柄山3類)
複弁は一つの花弁が二つに分かれているので、花弁の先端外側も分かれています。ところが3類では外側に切り込みが入らず、三角形に盛り上が っています。花弁の立体感もなくなり、細い輪郭線で囲まれる様にも見えます。間弁も花弁同様に外側の切り込みが入らず、三角形になっています。 なお、縁の鋸歯文は遺存しないだけで、本来はあります。

kr158:柄山5類
柄山は厚見中林寺の瓦などを焼いた窯址群ですが、中林寺で発見されていないタイプの瓦が3種類見つかっています。
花弁の形も間弁も、高い部分は太い隆線で表わされています。子葉も太く長く変化し、花弁の反り具合は無視され、もはや花弁の本来の形は忘れら れています。しかし、花弁も間弁も外側の切り込みは大きくなっています。また、縁の鋸歯文もなくなっています。ここまで変化すると、拓本でも相違 は分かりますが、やはり立体写真が勝ります。

kr159:柄山6類
柄山6類は1点しか遺存せず、この個体は相当に摩耗しているため、本来の姿は分かりません。5類のように太い隆線で表わされていますが、周縁 に連珠文を配置した分だけ花弁が短くなっています。花弁の切り込みは5類より大きいですが、間弁は逆Y字形から三角形に変化し、切り込みは入 っていません。
台型多孔須恵器
奈良時代の須恵器の中で、通常は鉢と呼ばれるものがあります。確かに鉢形ですが、体部の轆轤の挽き方はむしろ台の造りです。そして底部に相 当するところは多数の孔が乱雑に開けられ、その数、位置、深さ、穿孔するものしないもの、底部全体の形状、厚さ、これら全てがばらばらです。特に 底が突き抜けていては容器として使えません。といって必ずしも貫ける訳でなく、孔を開ける時に極めて偶然的に開いています。このような状態から、 私は台型多孔須恵器と仮称しています。さて、鵜沼出土の資料で面白いものがありますので紹介します。下の写真はその多孔の部分ですが、稲の 穂先の圧痕が付いています。更によく見てみますと、芽が出ています。恐らく、この須恵器の造られた時期が発芽に適した季節だったのでしょう。
(各務原市鵜沼出土)

上の写真の樹脂型ですが、90度ずれています。樹脂型にすると、かなり分かるようになります。左中央から上へ向かう穂先と、左中央から右下角へ向かう穂先と2本が直交しており、この写真範囲では右へ向かうものは多数の籾が付いており、どれもが発芽しているようです。特に分かり易いもの2点に矢印を入れましたが、下のものが須恵器の写真に矢印を付けたものに当ります。これは直角に折れています。
古鏡

(岐阜市鎌磨出土) 方格規矩鏡と呼ばれる舶載鏡(中国製)です。立体写真としての醍醐味はあまり感じません。細部をよく観察して下さい。鋳上がった後で、細部を削って仕上げている部分が分かるかと思います。たとえば、T型・L型の文様の中など。
旧石器接合資料

立体写真の醍醐味は何といって旧石器の接合資料が最高です。旧石器の接合資料とは、石器製作跡に残された石片を接合したもの、要するに石器として使わなかった部分を接合した資料です。これにより、原石からの加工の仕方などが分かります。

小川コレクションの中に旧石器の接合資料はないので、参考資料を掲載します。 (東京都下柳沢出土 早稲田大学蔵)
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立体 安土城