野古墳群 |
(見学して頂きたい史跡)
美濃には数十基の前方後円墳があると言われています。前方後円墳はどこにでもあるものではなく、美濃では平野部と山間部の境辺りに幾つかま とまって分布する傾向があります。しかし、土取りなどによって破壊されたもの、消滅したものも少なくありません。 そのような中で、揖斐郡大野町野にある野古墳群は、現在でも旧状を比較的よく残しています。 この地は僅か400m四方程の狭い範囲に前方後円墳・円墳が20基ほど存在していたと考えられています。古墳の大きさは大きいものでも80m前後 で、特に大型のものではありません。しかし、平野部にこれだけまとまるものは多くはありません。 栄一の記録はいくつもありますが、下図は大正期のものです。この図では南出口・南屋敷西・登越・不動塚・乾屋敷に前方後円墳があり、それぞれ 字名を古墳名としています。ただし、地元で南出口古墳は城塚、乾屋敷古墳は不動庵塚の呼称があります。図では前方後円墳が5基、円墳が6基見 られますが、このうち7号墳は明治期の図では前方部が見られますので、後に土取りされたと思われます。また、モタレの大型円墳も前方部が削られ たような痕跡が現在でも見られます。外に、明治末期には登越の南側に方形と円形の盛土が残っており、栄一は前方後円墳の可能性も考えていた ようです。したがって、この地に存在した前方後円墳は、6基以上であったと思われます。 古墳主体部は正規に調査されていませんが、明治期に既に掘られたものが少なくありません。南出口古墳からは鍍金された鏡などが出土しました が、埋め戻されました。その後、京都の商人が買いに来て掘り出しました。現在、鏡は東京の五島美術館に保管されています。 |
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大正末期頃の南屋敷西古墳 墳丘は木々に覆われ、東側・北側の濠に 当たる部分は水を湛えていました。(右図参照) 野古墳群の調査報告書は栄一が昭和3(1928)年に 『岐阜縣史蹟名勝天然紀念物調査報告書』に書いてからです。この写真はその中に掲載されました。 |
大正期の野古墳群 (栄一の記録) |
野古墳群 (南より) 手前は城塚古墳。以下は1993年1月.3日撮影. |
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城塚(南出口)古墳 (北より) 城塚は墳丘が3段に造られている。段が美しい。 |
城塚古墳 前方部(墳頂から) |
南屋敷西古墳 (南より) |
南屋敷西古墳 前方部(墳頂から) |
登越古墳 (東より) 前方部が高く、段が目立っている |
登越古墳 前方部(墳頂から) |
不動塚古墳 (西より) 前方部は削られて低い |
不動塚古墳 前方部(墳頂から) |
モタレ古墳(東より) 左に前方部があるらしい |
7号墳(南より) かつて手前に前方部があった |
乾屋敷(不動庵塚)古墳(東より) |
見学について |
野古墳群は、県内はもとより、全国的に見ても旧状の非常によく残っている史跡です。付近は今でも田畑が多いため、数km離れた所からでも古墳 群を見ることができます。古墳研究者はもちろんですが、岐阜県民も一度は見学して頂きたい史跡です。ここでは個々の古墳もさることながら、古墳群 全体の雰囲気を味わって下さい。 ただ、この史跡は階段などの現代の設備は一切設けていません。立入り禁止区域もありません。それだけに、今後も自由に見学できるようにマナー には十分に気をつけて下さい。土を崩すような歩き方や行為は決して行なわないで下さい。田畑や農作物も傷めないようにして下さい。塵などは捨て ず、遺物類はないと思いますが、仮に見つけた時は、出土位置のメモを付けて大野町教育委員会に届けるか、いっそのこと拾わないで下さい。遺物 の落ちた状態も遺跡保存のうちです。また、トイレなどもありませんのでご注意下さい。 |
史跡としての整備 |
埼玉県行田市のさきたま古墳群は、武蔵国を代表する古墳群で、全長138mの二子山古墳などの前方後円墳8基を含んでいます。現在、26ヘクタ ールが古墳公園として整備されており、併せて博物館や民家、そして167台分の駐車場も併設されています。 野古墳群に比べて古墳の規模も大きいですが、博物館などの施設も段違いで羨ましい限りです。しかし、見方を変えると疑問もあります。博物館は 確かに羨ましいのですが、古墳に階段や柵を設け、濠なども人工的に造り直されており、遺跡の整備が保存だったのか破壊だったか疑問な点があり ます。 野古墳群は、多くの人に見て頂きたい、しかし、年間に数万人も押し寄せると、現在の景観は確実に損なわれます。実に痛し痒しというところです。 私としては、極力、県と大野町と地主の方の理解の下に、史跡の状況を変えないで、保存しながら有効に見学できることを切に願います。かなり矛盾 した内容ですが、そのためには行政と地元の理解、そして見学者のマナーが不可欠となります。 史跡は手を加えたならもう元には戻りません。是非とも現状のまま未来に残せるように御協力をお願いします。 |
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